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コラム「異見と意見」

人の人たる所以は、人と人との結合にあり

「人の人たる所以(ゆえん)は、人と人との結合にあり」

 これは、ドイツの法学者オットー・フォン・ギールケが、その著書『ドイツ団体法』の第1巻冒頭に掲げた、名句といわれている言葉です。私がこの言葉を知ったのは日立製作所勤務時代の22~3歳の頃、当時の総務部長が社員を集めた訓示で、度々日本語とドイツ語(Was der Mensch ist, verdankt er der Vereinigung von Mensch und Mensch.)で語っていたからでした。私がドイツ語を学んで間もない頃であり、歯切れの良いドイツ語の響きと言葉の意味がすっかり好きになり、以来私はこの言葉を私なりの解釈で大切にして生きて来ました。

 幼少の頃を過ごした大分の片田舎、周囲にわずか24戸しかなかった集落は、就職でそこを離れて以来の年月と少子高齢化の中で今では11戸に減り、そこに暮らす人達の世代交代も進みました。それでも帰郷した時は寸暇を惜しんで、65年以上経った今もなお幼少の頃お世話になった思い出の人達を訪ねます。

 小中学校生時代を共に過ごし、当時の思い出を共有できる竹馬の友にも、60年以上経った今もなお、帰省すれば自宅に立寄ったり同級会などに参加し、再会を喜び旧交を温めています。また社会に出て最初の就職先である日立製作所で55年前に出会った人生最初の職場主任や同期入社の人達、仕事で出会った多くの人達とも、日立を離れて40年以上経った今もなお時々会い、会食などの交流をしています。

 さらに33才で経営支援の為転属した京都の、今で言えばハイテク・ベンチャー企業で苦労を共にした人達はもちろんのこと、言葉も分からず会社設立の為渡ったアメリカでお世話になった弁護士のDanさん、アメリカで最初で最大の顧客の購買主任だったGuyさん達とも、以来34年間にわたって家族と共に親交を深めています。

 そして27年前、創業社長が病に倒れるという緊急事態で入社したこのNCKでも、実に多くの人達に出会い、新しい交流が始まり、人と人とのつながりはさらに広がっています。

 私は、これまで仕事で出会って実感した銀行や証券会社の人達のような“金の切れ目、仕事の切れ目が縁の切れ目”と感じられるご都合主義的生き方や、出会った人達の“使い捨て、食い散らかし”とも言えるような生き方が好きではありません。その為、仕事であれプライベートであれ、そこで出会い、心の通じた人達やお世話になった人達とは、相手がいやでない限り決してこちらから疎遠にすることは無く、日常的コンタクトがなくなって以降も、機会ある毎に誠意を持ってお付き合いして来ました。そうして生きた75年、社会に出て55年の人生の中で出会い、今も思い出を共有している人は積もり積もって160人を超え、年賀状を書きながらその一人ひとりを懐かしく思い出し、心が温かくなります。以前この社内報「竹の子」に、「思い出と夢、それは私の生きがい」と題して寄稿したことが有りますが、思い出に残る人達、今もつながりが続いている人達一人ひとりは、私の生きがいの源泉であり、宝であり、生きてきた証でもあります。

 私は、人間は一人では生きて行けない動物だと思います。人と人とのつながりやそういう社会に支えられてこそ人は生活し、人生を楽しむことが出来るのだと思います。古くから私達の生きる日本社会は、時にはわずらわしく思えるほどに人と人とのつながりは深く、人情味あふれる社会だったと思います。江戸時代の庶民生活の記録を見ても、私が育った戦後の貧しい時代の生活でも、向う3軒両隣、地域住民お互いが気遣い、支え合い、力を合わせて生活を営み、地域文化を守り、子供達を育てていた社会がありました。しかしながら近年の日本社会は、経済的豊さと反比例するように人と人とのつながりが希薄になって来ました。特に都市生活にはその傾向が強く、最近では「無縁社会」という言葉さえ生まれました。核家族化が進み、ゲーム機を相手に、あるいはメールや携帯電話での交流で育った若者達には、社会生活でのコミュニケーション、人間関係の維持が不得手な人が増えています。職場の同僚以外に付き合う人の居ない人達も増えて来た最近の社会を、あのユニークな造語を生み出すことで知られる作家の堺屋太一氏が、新年の読売新聞で「職縁社会」と表現し、日本社会が時代の変化に即した変化を遂げるには、職場以外の交流を通じて「好縁社会」を作らなければならないと提案しています。人間はお互いのつながりがあって初めて人間らしい生活ができるのだと思います。特にこのグローバリゼーション時代は、日本人同士だけでなく、異文化、異民族との交流も大切です。しかし最近若者達の意識が内向きになり、海外留学者が大幅に減少しています。当社が20年以上にわたって続けている「社員アメリカ体験旅行」でも、参加意欲の低下が見られます。昨年、ケネディ大使と交代して帰国したルース前駐日アメリカ大使は離日に当って、「最近日本とアメリカの間で若者達の交流が少なくなっていることが、今後の日米関係を考えると危惧される」とのメッセージを残しています。

 人間が一人では生きて行けないのと同様、国も一国だけでは生きては行けない時代です。東アジアをはじめとして、世界各地に緊張感が漂っていますが、先ずは国内での人と人とのつながりを図り、それをさらに国境を越えた人と人とのつながりに広げ、相互理解を通じて文化や国籍を越えた平和な社会の構築につなげたいものです。

(H26.1.6 記)