NCK株式会社
日本コンピュータ開発

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コラム「異見と意見」COLUMN

社員の採用と育成は会社発展の源泉

新入社員を迎えて3か月が過ぎた。当社はこの30年間、景気動向に関係なく、毎年新規卒業者に限った社員採用を続けてきた。新入社員に対しては、一般企業が即戦力化を目指した導入教育に励んでいるのに対して、当社は座学で、労働基準法の定めに従って行う就業規則の説明や、勤務者として必要な事務処理手続き教育など最小限の導入教育を行うのみ。続いて行う3泊4日の合宿研修では、①会社を知ろう、②経営幹部を知ろう、③同期生相互を知ろう、という3つのテーマを目標に、これから勤務する当社への理解を深めるための教育に力を入れ、その後直ちに職場配属するのを常としている。仕事に関する教育は仕事を通じて、つまりOJTで時間をかけて行うのが原則で、当社には即戦力化などという考えはない。社員の成長は入社後5年で半人前、10年で0.8人前と考えている。 人の育成に植物のような促成栽培はないとの認識で、同時に社員を企業戦士、つまり単なる仕事師、お金を生み出す設備機械の様な存在とは考えていない。そこで社員の育成を自然界の動物の子育てに倣って、つまり口ばしの黄色い内は育成に努め、行動力(技術や知識、経験)を身につけさせ、最終的には自分で餌捕り(営業活動)が出来る、一人前の成人に成長させるとの考えから、次のようなステップでの社員育成に努めている。

  1. 第1ステップ: 良き社会人、良きNCK社員、つまり「社会と会社はGive & Take」という会社の基本姿勢、経営理念、目指すべき目標を正しく理解、共感し、その実現に向かって取り組む意欲のある社員になること。
  2. 第2ステップ: IT技術者集団であるNCK社員の一員として、プロと言えるIT技術者へ成長すること。この場合専門への特化より何でも屋を目指す。
  3. 第3ステップ: 単なる技術者として、指示待ち、使われ人間になるのではなく、その技術を活用して主体的にプロジェクトに参画し、顧客満足を実現する、仕事(ビジネス)ができる職業人に成長すること
  4. 第4ステップ: 自分の仕事は自分で確保(仕事の開拓、受注活動)できる自立した一人前のビジネスマンとして、全員営業の一員となる。

創業当時の当社には、自主的な社員育成計画はなく、出来る限り多くの社員を採用し、その退職を防止して定着させさえすれば、社員は年数を重ねることで自然に育つという考えの下に会社が運営されていた。勤休管理に厳しさはなく、勤務時間中に派遣先職場を離れて、自社内でお茶を飲みながら談笑するなどのルーズさが目立つ一方で、社員旅行を含む親睦会行事を度々行なうなど、居心地に注意が払われていた。そのような、まだ会社としての体をなしていない創業間もない時、創業社長が病魔に倒れるという危機に直面した。私は予期せず、その後を継ぐことになった。

私はその人生経験から、①企業の発展は、社員の確保とその育成にある。②人は環境によって育つ。③だから社員育ての基本は、良い環境を作り出すこと と考えてきた。そこで先ず会社の存在意義から見直し、目指す経営、経営理念など、社員育ての基本となる、集団として共有すべき価値観、目指すべき方向を定めて明示し、独自の企業文化/環境の創造に力を入れてきた。採用に当たっても、単なる人数確保ではなく、企業としての価値観を共有でき、目指す方向に賛同できる新規卒業者に限った採用に徹し、先ずは第1ステップである良き社会人、良きNCK社員の育成に取り組んできた。そして企業文化の創造、社員育成の第1ステップが一段落したのを見計らって、仕事の育成と共にその仕事を通じた人育てが始まる第2ステップ以降の社員育てを、新しい経営陣に托して経営を引き継いだ。第2ステップ、第3ステップと、より成長した先輩社員が後輩を育てる流れを定着させることで、会社全体の成長と発展を期待した。この場合、先輩が先輩らしく、上司が上司らしくなる事を目指して、各人は上司、先輩の役割や仕事を引きとることを目指して自己成長に努める一方で、自分の位置を継ぐ後継者、後輩を育てることを期待した。これこそが、集団が成長する為の基本である。この場合大切なことは、上司の指示に忠実な実行者、つまりイエスマンになるのではなく、集団が目指す目的に対して忠実に取り組むことである。

そうして迎えた創業30周年、新しい経営陣に移行して、仕事を通じた、仕事の出来る社員育てが始まって9年が過ぎた昨年、予想もしない会社運営上の事件が起こった。面行動すべき経営が一向に軌道に乗らず、実態経営や社内雰囲気の変質、遅々として進まない社員育てを危惧している中で、ビジネスの分野においても、納入した顧客先で品質に関わる不良事故が度々発生した。いずれもその内容は極めて幼稚、お粗末なもの。それらを見ていると、いつの間にかNCKの理念が忘れられ、一般企業に同化されているのではないかと危惧された。NCKの理念や企業文化が好きで入社してくれた社員たちが、年数を経るごとに理念に対する情熱を失い、理解も薄れ、後輩をリードすべき先輩の役割を果たさず、あの品質にうるさい日立に育ててもらった社員までもが、プロに値する物つくりを忘れているように感じられた。「目先の仕事に対処するだけで手いっぱい。忙し過ぎることが品質低下の一因である。」「新入社員の採用が多すぎてそこに手が取られる。そのコストが利益を圧迫している。社員採用を控えるべきだ」などという言い訳を聞くこともあった。その一方で本業とは全く関係のない分野で一喜一憂し、出費の把握も管理もせず、資金の垂れ流しを行っていたという実態もあった。実に本末転倒な認識と行動と言えよう。

仕事とは、ビジネスとはどういうことか?決して正常な対応が出来ないほどに多くの受注をし、その処理作業、物つくり作業に悪戦苦闘することではない。品質をおろそかにしなければならないほどに忙しいのなら、受注を減らすか、別の対応策を考えるべきであろう。仕事とは、ビジネスとは、顧客の期待を正しく理解し、その期待に応え、顧客に満足していただき、その結果としてお金を頂き、利益を生み出すことである。資金はそのために有効に使うべきだろう。

会社のお金は経営者のものではなく、社員が稼いだ、社員のためのものである。一方で、新入社員の確保とその育成こそ、明日に向かった企業発展の源泉である。その社員の育成とは、決して業務処理が上手な作業者育てではなく、良き社会人として、顧客に満足していただくことが出来る、社員としてのビジネスマン育てである。社員育てを忘れた企業に明日はない。社員の育成こそが企業発展の源泉である。

次の30年へ向って第一歩を踏み出した今年、過去を振り返り、過去に真摯に向き合い、過去から学び次の発展へつなぐことが、NCKにとって今一番大切な事であろう。

(2015.08.25 記)

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