コラム「異見と意見」COLUMN
経営者の役割、社員の役割
3月11日に発生した東日本大震災で被災した日本と日本人の行動は、世界に大きな驚きを与えました。生活の場を一瞬にして破壊され壊滅的な被害を被った被災者の、必死に耐えながらも秩序あるあの行動姿勢に、世界中の人々は驚愕し絶賛しました。それは私達日本人にとっては当たり前の、日本古来の社会人としてのマナーでした。一方で、この壊滅的な大災害に対処する政治や組織の中枢を司る人達の、世界が絶賛する国民との対比からは想像もできない混乱した行動への失望でした。問題が発生する度に右往左往し、震災から4ヶ月経った今もなお復旧・復興の見通しが立たず、この巨大な日本丸はいつどこに着くのかも分からない漂流状態です。船長も乗組員も同床異夢、目的地の共有も出来ず、組織は乱れ、各自勝手に、思いつきに任せた無責任な発言や行動をしているようにさえ見えます。これは集団、組織にとっては非常事態ですが、彼らにその認識があるようには見えません。
一方でこの国家的非常事態にも関わらず、数あるマスコミは社会の中での自らの役割を忘れたかのように、どのメディアも類似した、少しも進捗のない情報を日々、毎時、ただ流し続けるばかりです。そんな興味本位のような、野次馬的情報に付和雷同し、一喜一憂し、あるいは一緒になって単なる批判者になったり不安に陥ったりする国民。あの頼りない議員達を選んだのも同じ国民。この壊滅的大災害に見舞われたのを機に、私達は今一度自分達の役割とこれまでの行動を省みて、今後の行動のあり方を真剣に考えるべきではないでしょうか?
先ずは私達の大部分が共有できる集団としての目標を定め、それを理解し共有し、誰もが自分の位置づけと役割を認識し、目標達成の為に責任ある行動をとることにしたいものです。自分は行動せず他人の行動を傍観し、単なる評論者、批判者のままで居ながら、一方では自分の願望達成の為に誰かが行動してくれる事を期待するなどという身勝手は通用しません。このことは社員の集合体である企業においても同様です。
グローバリゼーションの時代、リーマンショックや新興国の台頭による世界経済の混乱、秩序激変の時代の中で、今企業は東日本大震災にも匹敵する激震に見舞われており、さらにヨーロッパや中東、アフリカなどには次なる激震の予兆もあります。そのような激動の世界の中にあるにも関わらず、長年にわたってこの豊かさに慣れてしまった私達日本人、特に企業に働く人達は、この激動を自分の事として真剣に受け止めようとせず、今日の状態が明日もこのまま続くと思い込み、あるいは激変にあっても会社が、あるいは「お上」が自分を守ってくれると考えているかのようです。しかし非常時に頼りになるのは会社でも「お上」でもなく、常日頃から自らの努力で身につけた自分の力だけです。やるべき時にやるべき事をせず、問題に直面してから「想定外」などと言っても何も解決しません。言い訳や理由があれば良いというものでもありません。日々を無難に過ごすだけではなく、共有すべき目標と自分の役割を認識し、理解し、その目標達成に向かって取り組む中で自己成長を図り、非常時に備える努力をすることが大切です。
私は以前から「社長の役割の中で最も重要な事は、1.いかなる場合でも、その集団が進むべき方向、共通の目標を定め、指し示すこと。2.その共通の目標達成に向かって、組織を構成する者それぞれが、その能力を最大限に発揮する場、発揮できる環境を確保、提供すること」と言って来ました。それを怠るとどういうことになるのか、今東日本大震災に直面した政府や巨大組織の動きがそれを示しています。NCKはそのことの重要さに早くから気付き、多くの企業がバブル経済に浮かれている中で、先の先を読み、将来にわたって通用する、組織・集団としての目標を経営理念として定め、今また地方社会の再活性化という進むべき方向も示し、その理解の徹底と社員指導に、日常的に取り組んできました。
私はまた「プロのプロたる所以は、非常時、異常事態に対処出来ることにある」と言い、同時に「目標は遠くに持つほど良い」とも言って来ました。私達の仕事で言えば、正常状態のパソコンを使えるだけではプロとはいえません。プロでも素人でも、誰でもそれを使えて当たり前です。一旦故障したり異常事態が発生した時、その原因を突き止め、問題解決が出来て初めてプロと言えます。
東日本大震災への対応を見ていると、この国も企業もプロのリーダーが不在で、共有する目標は無く経済優先。異常事態の発生を想定し、それに備え、適時適切な組織体制、対処が出来るプロ育成の努力を怠って来たと言えましょう。目先の自己利益に関心が集まり、集団として共有すべき目標や将来像、例えば国家像を描き指し示す人が居なかったとも言えます。その結果、非常事態や緊急事態が発生しても右往左往するだけで、進むべき方向の設定が出来ず、ベクトル合わせも出来ず、責任逃れ、他者依存、無責任な批判や不平不満だけが横行し、腰を据えた取り組みが出来ない事態に陥っています。常に先を読み、遠くに目標を置き、それを共有していれば、何が発生しようと、何度転ぼうと、立ち上がって再びその目標に向かって力を合わせて行動を開始することが出来るものです。現在の状態は、目先の自己利益には関心があっても、リーダーの役割やその選任、あるいは社会のあり方に無関心で他人への依存体質の、この組織・集団の構成員、つまり国民に責任があるとも言えましょう。
当社社員の皆さん、集団としての会社の目指す目標や方向に関心を持ち、それを理解しているでしょうか?情報技術をよりどころとする自分の実力を振り返った時、自信を持って自分をプロと言えますか?今後更なる激動が予想される中で、問題に直面した時それに立ち向かって行く備え、自信、勇気あるいは覚悟は出来ているでしょうか?その時になって「想定外」などと言い訳をしても困るのは自分です。社長の役割、社員の役割、それぞれが役割を果たし機能し、その中で自分に力をつけて初めて、個人目標も達成できるのです。
(2011.07.29 記)